Directing

主席演出 平澤智之

シェイクスピア作品の演出をしていくということは私の人生の目的である「人間存在の探求」そのものです。

最初に行うのはシェイクスピアの原文と日本語訳を何度も何度も読むことです。演出のために読む、演じるために読むという感覚は全くありません。清々しい空気、小川のせせらぎ、吹きすぎる風の動き、花の香り、鳥の美しい声…大自然の現象を体でいっぱいに感じとるような開けた感覚で読みます。シェイクスピアの特徴…豊富な言葉やその意味、劇的効果にとらわれることさえありません。この読みで「登場人物の瞬間瞬間の心の動き」、「登場人物同士の多様な関わり」そこから生まれる「人生そのものの流れ」を的確につかむことができます。

次の作業は、つかみ取ったものを実際の舞台に移していく作業です。この作業で「人間らしさ」「人間の真情」を出すことが可能になります。同朋たちー出演者・スタッフーにその「本物の流れ」というものを具体的に伝え、確認していきます。出演者たちは流れを掴むと演じやすくなったと気づき、自ずと舞台が活性化し、格調、品格のある、爽やかな豊かな大自然のような舞台となります。これらが私のシェイクスピアの特質です。

私が理想としているシェイクスピア舞台は…神が天から地を見おろされるかのように…この世界のすべてを神が見通されるかのように…オーディエンスの方々が作品全体を、人間模様を隈なく見通せる心地よい舞台空間です。人生の師と仰ぐ服部陽子WSF代表のお言葉「なにより人への愛が大事です!」が私の目標であり、シェイクスピア演出の神髄と言えます。